@article{oai:jichi-ir.repo.nii.ac.jp:00000259, author = {廣瀬, 英生}, month = {2013-11-07}, note = {論文内容の要旨 1 研究目的 心室性期外収縮(Ventricular premature complexes; 以下VPC)は、電気生理学要因により、本来の洞調律時に発生する興奮より早期に心室興奮をひき起こす不整脈である。日本における住民健診や病院・診療所外来で施行される心電図においても比較的よく認められる所見である。 VPCを抱えることが、循環器疾患、死亡のリスクになり得るかという疑問に対して、現在にいたるまで様々な研究が行われてきた。背景に、虚血性心疾患、弁膜症、先天性心疾患、肥大型心筋症などの基礎疾患を抱えた患者において、VPCは突然死や死亡のリスクの増加につながることはほぼ一致した見解がある。しかし、基礎疾患を有しない一般健康成人におけるVPCの影響については議論の分かれるところである。海外における大規模コホート研究では、死亡率の増加について肯定的な報告と否定的な報告が存在する。 日本において、一般住民を対象としたコホート研究によるリスクの証明は現在に至るまでなされていない。日本人と欧米人だとその疾病構造が違うことから、日本におけるVPCのリスクの証明が望まれる。 今回申請者は、JMSコホート研究の参加者を対象に一般住民におけるVPCと循環器疾患及び循環器系疾患による死亡 (以下、循環器疾患死亡)の関連について検討した。 2 研究方法 JMSコホート研究は、循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中)及び死亡の危険因子を調べるために立ち上げられた全国12地区の地域住民を対象にした前向きコホート研究である。 ベースライン時の情報収集は、老人保健法に基づいて行われた一般住民健診を利用して、1992年4月から1995年5月にかけて、血液検査、生理学的検査、アンケート調査を行った。 基本データとして、血液検査(末梢血一般検査、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、空腹時血糖)、心電図検査、身長、体重、血圧測定及び自記式のアンケート調査(既往歴、職業、家族歴、食生活、喫煙歴、アルコール摂取、身体活動度)を行った。その後の追跡調査に関しては、10年間行われ、参加者の循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中)の発症及び死亡を確認した。 JMSコホート研究の全参加者は、12,490人(男性 4,911人、女性 7,579人)で、そのうち既 往歴が不明なもの、過去に心筋梗塞、脳卒中を罹患している参加者もしくはベースライン時に心電図を施行していない参加者を除外した。 自治医科大学に設置されている倫理委員会の承認を得、参加した対象者には全員同意を得て行った。 VPCを有しない群 (以下、VPC無群)とVPCを有する群 (以下、VPC有群)の脳卒中の罹患率、急性心筋梗塞の罹患率、循環器疾患死亡率をCoxの比例ハザードモデルを用いて比較した。ハザード比は、粗の比率、年齢のみで調整、多変量Model 1 (年齢、BMI、収縮期血圧、総コレステロール値、HDLコレステロール値、空腹時血糖値、喫煙状況)で調整、多変量model 2 (年齢、BMI、収縮期血圧、総コレステロール値、HDLコレステロール値、空腹時血糖値、喫煙状況、心電図上の心室肥大)で調整した。p<0.05を統計学的な有意差とした。 3 研究成果 ベースライン時に既往歴が不明な参加者、心筋梗塞の既往のある65例(男性 40例、女性 25例)、脳梗塞のある113例(男性62例、女性51例)を除外し、11,158人を解析対象者にした。男性 50,641人年。女性 80,716人年であった。 解析対象者のうち、転出打ち切りが、男性 112人、女性 243人であった。脳卒中、急性心筋梗塞、循環器疾患死亡のいずれかの発生を最終のエンドポイントとした。追跡期間は平均11.9年であった。VPCの発生は男性では59例 (1.4%)、女性では74例 (1.1%)に認められた。 VPC無群を参照にしたハザード比(95%信頼区間)は、男性において急性心筋梗塞の発症が、多変量(model 1)で調整した後も4.57 (1.40-14.5)、循環器疾患死亡では4.40 (1.23-13.2)と有意な関連があった。一方、女性においては、VPC有群に心筋梗塞と脳卒中の発生がなかったためハザード比は算出できなかった。循環器疾患死亡に関するハザード比は、多変量(model 1 )解析後において、0.94 (0.12-7.08)と有意な関連を認めなかった 4 考察 今回のコホート研究において、背景に循環器疾患を持たない男性では、VPC有群は、VPC無群に比べて有意に急性心筋梗塞の発症及び循環器疾患死亡を増加させることが示された。申請者が検索する限り、日本において、VPCと循環器疾患発症について関連を示した前向きコホート研究はこれまでのところ見出せなかった。今回の報告により、申請者は、心電図でスクリーニングすることは、循環器疾患及び死亡のリスクを見出すことに有用である可能性を示した。 VPCを抱えることと死亡率や循環器疾患の増加との関連ついては、過去に様々な研究がなされているが、大きく基礎疾患(特に冠動脈疾患)を有する場合と一般住民の2つに分けて議論を行う必要がある。 基礎疾患のなかで心筋梗塞後のVPCの予後に関しては、多くの研究がなされている。ほとんどの研究で、VPCを有することが短期的にも長期的にも予後を悪化させるという結果で一致している。 一般住民に対しての予後については、議論の分かれるところである。申請者の研究の結果は、男性において急性心筋梗塞及び循環器疾患死亡が増えるという結果であった。 本研究では、男性のVPCが循環器疾患のリスクになっているのに対して、女性では、リスクと なっていなかった。なぜ男性のみにVPCと関連があったかの原因はよくわかっていない。 推測される原因としては、2つのことが考えられる。まず1つは、女性は、心筋梗塞、循環器疾患死亡が少ないため、有意差が証明しにくかった可能性が考えられる。 もう一つの可能性として、心筋重量の男女差の影響が考えられる。VPCは、左室肥大がある患者に起こりやすいといわれている。また、左室肥大を有する患者は、循環器疾患の罹患や循環器疾患死亡の頻度が多い。つまり、VPCがあることは、心筋肥大の隠れたマーカーを見ていて、そのことが急性心筋梗塞や循環器疾患の増加につながっている可能性がある。 今回の結果によって、医師や保健師は診察、健診、住民教育の場でVPCを有する患者に対してアドバイスをすることが可能になるかもしれない。 本研究においていくつかの考慮すべき制約がある。まず一つ目にVPCを有する対象者が少ないということである。少なかった理由として、心電図を記録する時間が短かったことに起因すると考えられる。また記録時間の短さゆえに2段脈、3段脈、頻拍発作のリスクの層別化が困難であった。2番目は、ベースライン時のデータ収集で服用歴を聴取していないことである。 5 結論 今回申請者は、一般住民を対象にした前向きコホート研究において、男性でVPC有群は、急性心筋梗塞の罹患及び循環器疾患死亡率の増加のリスクとなることを証明した。, 論文審査の結果の要旨 最初に論文要旨の体裁不備や論文中の用語の間違いがあったが、それらはすべて訂正されていた。内容に関しては阿古、小谷、三橋それぞれの委員からいくつかの質問、コメントが提出された。それに対し、広瀬氏は真摯に受け答え、的確に訂正がされた。 本論文は疫学研究でありさらなる検討と実地臨床に沿った介入試験の実施など広瀬氏の次への研究発展に期待するものである。 広瀬氏の今までの業績、診療態度、知識等も学位を授与することに問題がないと委員全員が同意したことをここに証明する。 試問の結果の要旨 先日行われた学位論文の発表に関しては、発表態度や形式には特に問題は認められなかったが、委員の中から今までの研究の推移や定義などをもう少し丁寧に、かつ厳格に行ったほうが良いとの指摘があった。 発表後の委員からの質問に対しても的確な返答があり、かつ臨床家として十分な専門知識も得ていることが確認された。}, title = {日本の健康成人における心室性期外収縮と循環器疾患との関連について-JMSコホート研究より-}, year = {} }